BMW 523d SEDAN 試乗記

2017/08/16

試乗記

今年の2月に登場した新型5シリーズは、BMW自身が「かつてない一台」を豪語するだけあって、先代よりも随分と進歩した1台に仕上がっている。何せメルセデスEクラス、アウディA6、ジャガーXFといったライバルたちがひしめくこのクラスでは「良くて当たり前。もっと他と違うところを見せやがれ」という目の肥えた顧客の要望に応えなければならないわけで、小手先の改良だけではやっていけないのだ。
今回試乗した523dは、2Lディーゼルエンジンを搭載したグレードで、各ラインナップの中でも一番の売れ筋である。販売側もそれは承知しているようで、発売当初から全国各地に試乗車が配置されているので、試乗の予約には苦労しないはずである。

エクステリア

ヘッドライトの意匠変更によって、かなり押しの強いデザインとなった。とは言え、基本的なBMWのコンセプトは継承されており、車に興味のない人間からすれば、マイナーチェンジ程度の変化としか思われないだろう。だが、フルモデルチェンジ=外観の一新という日本的な悪い考えはこの際捨ててしおう。
フロントグリルはシャッターが装着されてことで、停車中はプラ板で蓋をした格好となる。これは個人的にはあまり嬉しく無い。ラジエーターやホーンがちらちら見えたほうが車らしくて良い。

インテリア

これもまた水平線基調のデザインと言う点では変わり映えしないのだが、全体的な質感はグッと向上している。ただ、国産高級車と比べればまだ詰めの甘いところも多く、
・パワーウィンドウとドアミラーのスイッチが樹脂丸出しで貧相
・ジェスチャーコントロールの反応が鈍く使い物にならない
・走行モード切り替えボタンの感触が気持ち悪い。位置も悪く押しにくい
・ハザードスイッチが小さく押しにくい
等々、気になりだしたらキリがない。まぁ、今までが価格不相応に貧相だったことを考えれば大進歩と言っていいし、あくまでもスポーティーを売りにしている車なんだからこれで十分じゃないか、と擁護してみる。
あと地味なところではナビの性能、これも結構頑張っているのではなかろうか?地図表示や操作性も向上していて、外車のナビ=糞という固定概念を多少なりとも払拭してくれるはずだ。
室内空間について言えば、広さは前後席共に必要十分。ただ、後席は足元にそれほど余裕があるわけではないし、頭上もリアガラスが結構近いので、あくまでもドライバー重視の設計と言える。後席の居住性を最重視するなら、7シリーズのロングか、よりコストパフォーマンスに優れるFFのラージセダンを検討したほうが良い。

その他

今回の5シリーズの進歩のうち、安全装備の強化も注目すべき点だろう。衝突被害軽減ブレーキはもちろん、クルーズコントロールに車線維持機能をプラスしたステアリング&レーン・コントロール・アシストも装備している。これの操作はステアリングスイッチに集約されていて、扱いも楽々である。この辺の安全デバイスは国産車が先行しているイメージがあったが、輸入車もなかなかのものである。

サウンドシステムは、Harman KardonとBowers & Wilkinsをオプション設定。相変わらず純正状態での音質が悪いのがBMWなので、予算に応じての装着をお勧めする。

いざ試乗へ

エンジンをかけるとやっぱりディーゼルなのでガーガーガラガラ…………しない!何故だ!320dはあんなに煩いのに!高い車は違うのぅ!
そんな感じで、全く車内が静かなのに驚かされる。確かに停車中はカラカラと音がするのだが、走り出してしまえばロードノイズと風切音に紛れてしまうほどの音量しかないのだ。これは凄い。
動き出してみると、ステアリングがずいぶん軽い。が、決してゆるふわ系ではなく、車速や旋回の挙動にマッチした感覚で運転しやすい。ライントレース性もバッチリである。個人的にはもう少し重くクイックな方が好みではあるが、車のキャラクターを考えればこのくらいがベストなのだろう。
乗り心地についても、申し分なく、常にフラットな感触で好印象。高速道路の継ぎ目もスッとこなしていくので、ランフラットタイヤを履いていることを忘れてしまうほどだ。
パワー感もトルクにあふれるディーゼルのお陰で不足を感じることはないだろう。市街地での加速や、120km/h以内での巡航ならこれで問題ない。一番人気のグレードというのも納得の出来だ。

……だが、速い車に慣れている人間。つまり私のようなひねくれ者からすれば、「何だこの程度」といった感想しか出てこない(※)。確かにスムーズで快適ではあるのだが、高回転域での加速の伸びや刺激には乏しいのだ。ドライバーを置き去りに、ボディーが前へ前へと進もうとするあの感覚がないと、なんとも寂しいのである。
そんなわけで、次回6気筒ターボの試乗へと続く。

※世間の9割の人間には2Lディーゼルで十分である。念のため。


諸元/523d M Sport


全長:4,945mm
全幅:1,870mm
全高:1,480mm

ホイールベース:2,975mm
トレッド:1,600mm(前)/1,595mm(後)
最低地上高:145mm
最小回転半径:5.7m

車両重量:1,700kg
車両総重量:1,975kg
乗車定員:5名

エンジン:B47D20A 直列4気筒DOHC16バルブ
総排気量:1,995cc
最高出力:190ps/4,000rpm
最大トルク:40.8kgm/1,750-2,500rpm
燃料タンク容量:66L(軽油)
燃費:21.5km/L(JC08)

駆動方式:FR
変速機:電子制御8AT
サスペンション:ダブルウィッシュボーン(前)/インテグラルアーム(後)
制動装置:ベンチレーテッドディスクブレーキ(前/後)
タイヤ:245/40R19(前) 275/35R19(後)