ダイハツ ミライース 試乗記

2017/04/23

試乗記



一昔前、軽自動車といえばパワーも乗り心地も装備も貧弱で、縦も横も小さく、極めて窮屈な代物であった。だがここ最近になって軽自動車の主流を豪華装備と大きな車内容積を備えたハイトワゴン系が占めるようになり、"エコノミー"の看板を背負って立つような小型ハッチバックはむしろ少数派となってしまった。今回取り上げるミライースも、「軽自動車って本来こういう物だよね」と思わせてくれる正統派(?)の1台である。現行型は5月9日にフルモデルチェンジを控えたモデル末期であるが、試乗の機会を得たので紹介しようと思う。

エクステリア

最近の軽自動車としては珍しく、メッキ加飾にほとんど頼らないクリーンなデザインとなっている。老若男女問わず受け入れられるデザインであるし個人的にはアリな部類だが、正直なところ街中での存在感は殆ど無いと言って良いだろう。すれ違った電柱の本数を覚えていないのと同じ感覚だ。
もっともシンプルで目立たないのもこの車の美点の一つ。下手なドレスアップは却って見苦しいのでお勧めしない。そういうキャラクターではないのだ。

インテリア

スピードメーターがデジタル表示だ!ということに少し感動を覚えるが、最初だけのことであった。CVTでゆんゆん走る車とは言え、タコメーターの存在に慣れていると少し落ち着かない。速度の方もスイープする指針がないので加速度を視覚で追いかけることが出来ずなんとも物足りない。しかし視認性そのものは良く、デザインもエコと先進性を感じさせるものなので、これで"必要十分"なのだと思いたい。
オーディオはラジオ・CDプレイヤーを標準装備。性能に期待するようなものではないが、炊飯器のスイッチそっくりなボタンの感触は何とかしてほしかった。ちなみにこのプレイヤー、ナビパネルの全面を占領しているが、取り外すと1DINサイズなのが分かる。下半分は蓋付きの小物入れにでもしたいところだが、恐らく年配者の操作性を考慮したのであろう。
シートの出来は程々。ホールド性は皆無だが、広さは成人男性でも収まる程度に出来ている。ただし価格相応にペラペラなので、長距離向きではないのは確かだ。それから、今回試乗した最上級グレード以外はシートリフターが付かないので要注意である。
後席の広さは予想以上に広い。ドアも90°近く可動するため乗降性も良好であった。後席で使える収納がちゃんとあるのもGood。

いざ試乗へ

やはり、というべきか、風情もへったくれもないエンジン音が耳につく。そしてゴム紐で引っ張られているかのような加速感。だが、これが本来の軽四。文句を言うのは筋違いだ。アバルト595じゃないんだから。
速度がある程度乗ってきて巡航状態に入ると騒音も一段落して不快ではない程度に落ち着いてくる。走らせてみて気付いたのは、実用域の40km/h~60km/h辺りまでは一定速度で巡航する分には、無理なく走る余裕があるという点であった。恐らく車体の軽さが効いているのだろう。ただし加速力は望むべくもないし、乗車人数を増やした場合にどうなるかは分からないが。
乗り心地は比較的ソフト。ライバルのアルトと比べれば若干安定感に勝っている印象を受ける。ただリアの落ち着きが悪いのと、全体的にロール時の挙動が大きすぎる点はなんとかして欲しい所。ステアリング操作に対する応答性はクセがなく扱いやすいが、ハンドリングを云々するような走りを試すのは止めておこう。


とにかくチープな仕上がりだが……

この車のドアを一度でも開閉すれば、すぐに"頼り無さ"をひしひしと感じるだろう。薄い・軽い・安いを追求した結果の感触がそこには有る。シフトレバーの感触もグニグニとしているし、グローブボックスはハイゼットよりも薄っぺらい印象。内装もどこを触ってもプラスチック感でいっぱいだ。ついでに純正マットの毛足も短く硬く安っぽいことこの上ない。ただ、最上級グレードには、オートエアコンと革巻きステアリングが標準装備で、小さいながらもサイドエアバッグまで付いており、ここにダイハツの良心を多少感じるのであった。万が一この車を買うことになれば、このグレード以外に手を出さないだろうと確信。
と、ネガティブな意見ばかり並べてみたが、よくよく考えれば超安価な本車の価格設定を考えれば、責めるのは酷というものである。昔はエアコン、パワステ、パワーウィンドウの三点セットで"フル装備"と称したが、実はミライースは全グレードフル装備である。最下級グレードでもクルクル窓ではないのだ!これだけでも個人的には大満足である。単純に日々の移動手段としてみた場合、ここまでコストパフォーマンスに優れた乗り物もそうそう無いだろう。

諸元/ミライース G"SA"

全長:3,395mm
全幅:1,475mm
全高:1,490mm

ホイールベース:2,455mm
トレッド:1,305mm(前)/1,295mm(後)
最低地上高:140mm
最小回転半径:4.4m
車両重量:730kg
乗車定員:4名

エンジン:KF 直列3気筒DOHC
総排気量:658cc
最高出力:49ps/6,800rpm
最大トルク:5.8kgfm/5,200rpm

燃料タンク容量:30L
燃費:35.2km/L(JC08)

駆動方式:FF
変速機:CVT
サスペンション:ストラット(前)/トーションビーム(後)
制動装置:ディスクブレーキ(前)/リーディングトレーリング(後)
タイヤ:115/65R14(前/後)