安全意識の希薄な消費者 後編 「軽自動車は安全か?」

2017/01/22

持論・暴論 車の安全

「軽自動車は走る棺桶」という人もいれば、「いやいや、今では普通・小型車と変わらないよ」という人もいる。少なくとも、軽自動車が主力兵器であるダイハツやスズキの営業マンから前者のようなセリフを聞くことはまずあるまいと思う。では、実際のところはどうであろうか。


残念ながら同程度の技術水準で作られた車であれば、基本的に重量と寸法が小さい方の被害が大きくなるのは物理的な必然なのである※。ましてクラッシャブルゾーンの大きなセダン型等と比べればその能力に決定的な差があるのは当然であって、結局は購入者がどれだけ安全性のために投資をするのか、という問題になってくるのだ。メーカーは色々なデータを持ち出して、この事実から目をそらしているが……。

※単純に重量で比較した場合、車両質量比1:2の時、前突時の運転席乗員死亡率の比は1:11.5程度である。


統計で見た場合

交通事故総合分析センター(ITARDA)の調査によれば、2013年の交通事故における乗車中の負傷者数は、登録車で44万人、軽自動車で17万人程度である。これに対して死亡者数は登録車で955人、軽自動車で428人である。負傷者対死亡者の比で見れば双方のパーセンテージは、0.26%、0.22%と僅差に思える。この結果をもって軽自動車の安全性を主張する者もいるが、こういった統計のマズい部分は車両の用途については一切考慮されない点にある。毎日高速を行き交う営業用バンが多数ある一方で、農道しか走らない軽トラも多数存在することを忘れてはいけない。


国内のアセスメントの結果を見る

JNCAPの試験結果を根拠として「軽自動車の中には、コンパクトカーよりも点数の高いものがある」という人がいる。正直こういうコメントを見るたびに卒倒しそうになる。実はこの試験方法自体に色々と軽自動車に有利なカラクリが存在するのである。試験方法について詳細を書くと


・フルラップ全面衝突
車両を55km/hにてコンクリートバリアに正面から衝突させ、ダミーに加わるダメージを測定する。
衝突試験の結果は、試験車の質量が同程度の場合に限り比較が可能です。
という但し書きがある点がミソである。衝撃の度合いが自車の重量によって変化するのだから当然だろう。基本的に衝突試験が、静止目標に自分からぶつかっていく、という方式を取る以上、異なる車格同士での損害の度合いを消費者が判断する、というのは非常に困難なのだ。


・オフセット前面衝突試験
アルミハニカムに対して、運転席側40%のエリアのみを衝突させる。速度は64km/hである。接触する範囲が狭いため、上記よりも厳しい試験となるが、より現実の事故形態に即したものと言える。


 ・側面衝突試験
アルミハニカムを装着した台車を55km/hで衝突させる。ただし、台車の重量は950kgである。これは大体現行のパッソと同程度、アクアなら軽く超えてしまう程度でしかない。


・後面衝突頚部保護性能試験
試験対象と同一重量の車両が、32km/hで追突した場合を想定した試験である。ただし、試験は前席シートを用いて衝撃を再現したもので、実車では行わない。


さて、「軽自動車も普通車と同じ試験をしてるから大丈夫」という"試験"の内容は以上のとおりである。結局ここでは、車両相互事故における軽自動車と登録車同士の安全性の差など無い、という証明が不可能であることが分かったと思う。
では、同重量の軽自動車と小型車同士で考えればどうか?やはり、ここでも差があると言わざるをえない。トヨタ・カムリ、ホンダ・アコードといった中~大型セダンは勿論、日産・ノートやホンダ・フィットといったコンパクトカーまで、海外に輸出される車両は、現地の厳しい試験をクリアしているのだ。


Euro NCAPでは

欧州で行われるEuroNCAPでは、前面衝突、オフセット衝突の項目については国内と同一であるが、後部座席に子供を模したチャイルドシートと小型ダミーが用いられる。側面衝突に関しては速度が50km/hであるが、台車の重量が1,500kgであり、車両に加わるエネルギーはより大きなものとなっている。更に特筆すべき点はポール衝突試験の存在で、電柱を模した標的に対して車両運転席側面を32km/hで激突させる、という大変厳しいものである。この試験のお陰で欧州で販売される車両ではサイドカーテンエアバッグの装備が殆ど常識化しているのである。我が国においても、2018年6月15日以降発売の新型車に対してようやくこの試験が導入されることとなった。但し、軽自動車に関しては2023年1月19日まで衝突速度を26km/hとして良いとしている。


米国IIHSでは

北米においては走行する車両自体が大きく、かつ常用速度が高いこともあり極めて厳しいテストが実施されている。
オフセット衝突については64km/h、運転席側50%での試験のほか、同速度、運転席側25%のスモールオーバーラップ試験が導入されている。また、側面衝突については50km/h、台車重量3,300lb(約1,500kg)で実施しているが、SUVやピックアップトラックを想定し、より大型の試験台車を用いている点が特徴である。この他、横転事故を想定したルーフ強度のテスト項目も存在し、自重の4倍の加圧に耐えなければ"優"評価が与えられない。


結論

・同年式の車を比較した場合、重量と安全空間の差が重要な要素となる。
・事故統計から軽対登録車の実質的な差を読み取るのは困難である。
・同重量であっても、軽自動車と輸出も目的とした小型車では安全性に差がある。

結局のところ安全性と、コストはトレードオフの関係にある。どこまで安全性を求めるかは購入者次第である。