安全意識の希薄な消費者 前編 「安全はお金で買うもの」

2017/01/08

持論・暴論 車の安全


※トップ画像はインフィニティ・M(Y34)である。国内仕様のセドグロと明らかにバンパーのサイズが異なる。


車を売っていてなんとも不思議だったのは「ユーザーの多くが自分が事故を起こしたときのリスクについて、ほとんど何も考えていない」と言うことである。最近では、サイド・カーテンエアバッグが標準装備という車種も増えてきたが、少し前までは高級車を除いてはオプション装備か、そもそも設定すらされていないというのが当たり前であった。
私は販売にあたっては必ず安全装備の説明とサイドエアバッグ装着のお勧めをしていたのだが、何故か「高いから」と言うだけの理由で却下するお客が多かった。たかが5~6万円の装備なのに、である。側面衝突で首がネジ切れたり、半身不随になったりするリスクを考えれば決して高価な装備ではないはずなのだが……。


ユーザーからしてこんな感じであるので、メーカー側も国内仕様車の安全対策は非常にいい加減だ。「クラス世界トップレベルの安全性を追求」(※"実現"とは言っていない点に注意)などと調子のいいことを言いつつ、安全に投資しない日本人相手には、装備をオミットした廉価版を売りつけているのである。「金のない奴の命は安いのだ、全ては自己責任なのだ」とメーカーは口が裂けても言わないが、要するにそういうことなのである。


日本車の安全性はトップクラスか?

この疑問については、YesともNoとも言いかねる。と、言うのも輸入車と国産車を国内で同条件の下で比較した資料というものがほとんど出回っていないからである。ここで言えるのは、日本メーカーが輸出している車種の内、北米仕様、欧州仕様のものに外車と同等の安全性を持ったものがある=トップクラスの製品も作ろうと思えば作れる、ということだけである。


国内専売車は避けるべきか?

私は基本的に日本専売車には乗らない。だから我が家には軽自動車は無いし、ミニバンも置いていない。ハッキリ言って安全性に信用が無いからである。確かに現在販売されている国産車の多くがJNCAPのアセスメントで高評価を受けているが、その判定基準自体は欧米に比べて大幅にユルイものでしかない。大学生の学力を小学校の試験問題で比較できないのと同じ理屈で、仮にクラウンにボルボ・S90を上回る安全性があると主張しても、「そうだ!」とも「ちがう!」とも言えないのである。だが、国内の試験基準が低い以上、そこにメーカーの善意を期待して手を出す訳にはいかない、と考えるわけだ。


輸出もしている車種なら安心か?

Noである。例え海外のアセスメントで高評価であっても、それは現地での話だ。これについては上にも書いたが、国内仕様と輸出仕様では明確に装備の差が存在する。例えば、全く同じ車種であっても輸出仕様は

・サイドエアバッグが全グレード標準装備
・フロントバンパーの構造が異なる(海外仕様がより大型)
・後席ヘッドレストの全席装着
・シートベルトの全席三点化(国内では2012年7月より義務化)
・メッキの目付け量、防錆塗装の膜厚が大きい

などである。昔からこの点について、各メーカーは「輸出先によって事故形態が異なるため」などと言い訳してきた。確かに日本と北米では、対人・対車両事故の比率も違うだろうし、車両の規模や平均速度も異なる。しかしそれが防錆塗装や配管系のガードを省略する理由になるのだろうか?(ちなみにこの"言い訳基準"によれば、90年代の日本にはカンガルーが繁殖していたことになるのだが……)
よって海外の評点もあくまで参考に留め、かつ購入時の安全装備を十分に吟味する必要がある。(結局、ここまで来ると素直にドイツ車でも買ったほうが手っ取り早いのではないか、とも思えるのだが……。)

最後に、このような状態を作り出した原因はメーカーの強欲や国交省の怠慢ではなく、根本はユーザーの意識の問題にあると考える。彼らは結局のところ、資本主義の原理に従って市場の要望に答えているだけなのだ。事実、車の本質とは無関係な装備は増え続けているではないか。