2016/11/13

BMW 640i Gran-Coupe 試乗記

かつて日本で"背の低い4ドア"が持て囃された時代があった。大抵はドアに窓枠の無いサッシュレス型で、これをハードトップと称し、若者達がこぞって買い求めた。だが、安全規制とコストの高まりによって、バブルの終焉と共にその勢力を縮小。2009年、レガシィのフルモデルチェンジによってついに国産車からサッシュレス4ドアが姿を消す事となったのである。
ところが2005年、メルセデスから4ドアクーペのCLSが発売され、これが一気に世界の話題をさらうと、続けざまにシトロエン・C6、5ドアのアウディ・A7等の欧州勢が上陸し、日本市場はすっかり母屋を奪われた格好となってしまった。そして最後発のBMWが刺客として送り込んだ“窓枠無し族”が6シリーズグランクーペというわけである。今回は人気グレードの640i Mスポーツに試乗してみた。



エクステリア
美しい、の一言。"流麗"とか"優美"とか言った単語はこういうデザインのためにあると言ってもいい。しかも単に大人しいデザインと言うだけではなく、曲線と直線を上手く使い分けて、スポーティーな演出を施しているところが実に良い。若干、リアの造形が無愛想な気がしなくもないが、基本的にはどの方向からも人目を引く良いデザインに仕上がっている。5シリーズやEクラスのようなオジサンの入れ物からオジサンが出てきても何の感慨も湧かないが、こういう車なら「お父さんカッコいいね」と言われること請け合いである(?)。正直こういうデザインが国産車に現れないのが非常で残念でならない……。
個人的に本車エクステリアで一番気に入っている箇所が、なだらかなノーズ形状と、比較的穏やかなヘッドライトの造形である。BMWに限らず、最近の輸入車は新興国ユーザーの嗜好を反映してか、妙にキツめの表情をしているが、6シリーズに限っては成金の毒気の影響が少ないようである。

インテリア
試乗車に乗り込んでみると、おなじみMスポーツ仕様のステアリング(少し太めで表面がモチモチした不思議な奴である)がお出迎えしてくれる。メーター類はBMW特有のシンプルなものだが、液晶化されたことで、走行モードの切り替えに応じて多様な表情を見せる。表示の視認性も申し分ない。
全体的なデザインとしては、車体の大きさに比してタイトな作りになっており、視界の狭さもあってドライバーは穴ぐらに潜り込んだような格好となる。さながら段ボールから顔を出した猫の気分である。もっともこれは気分の問題であって、身長180cmの人間でも居住性に不足はないので安心してもらいたい。
後部座席については若干乗降性に難があるものの、一旦乗り込んでしまえば何の問題もなし。ドライバーズカーであっても4ドア車としての一定の空間水準は保たれている。ちなみにカタログ上3人が乗車可能とされているが、中央席はセンターコンソールを跨ぐ格好となるので、あくまでも応急用である。
この車のインテリアで文句をつけるとするならば、シート表皮の質感であろう。標準のダコタレザーはあまりにもガサガサしすぎで、価格相応の満足感を与えてくれない。オプション設定で上級仕様のシートに入れ替えることを強くオススメする。BMW自慢のIndividual仕様についてはM6で試してみたのだが、標準仕様との落差には驚くべき物がある。また、前期型で設定されていた、レザー&アルカンターラのコンビ仕様を廃止したのも残念なところである。

その他
今回の試乗車には、大型のガラスルーフが装着されていた。チルトアップのみで、スライド機構のないタイプであるが、車内の採光や後席の開放感演出のために是非とも欲しい装備であると思った。
ラゲッジスペースを見てみると、サスペンションに圧迫されていて予想以上に窮屈な印象を受けた。ゴルフや旅行の荷物が多い方は、実車での確認をお忘れなく。
オーディオに関してはオプションでBang & Olufsenが選択できるが、やや価格設定が高め。だが、標準のオーディオの完成度がそれほど高いものではないので、簡単に諦められないのが辛い。

いざ試乗へ
この車はかなり重量がある部類なのだが、そこは320psのエンジンだけあって軽快な走りを見せる。エンジンの特性も非常に扱いやすいもので、低速から必要なパワーをしっかりと吐き出してくれるし、8ATの制御も実になめらかである。走行モードをSportに切り替えると、なおスムーズな加速をしてくれるが、決して尻を蹴り上げるような過激さはなく、実に乗りやすい。確かにカタログスペックを見れば"速い車"なのだが、手に汗握って振り回すような代物ではなく、長距離を快適に移動するクルーザーとしての味付けがしっかりとなされている。
ハンドリングに関しても、比較的クイックな部類には入るが、程よい穏やかさも持ち合わせている。ステアリングを切ってすぐの反応速度については、これより俊敏な車も多いのだが、6シリーズの優れている点は、旋回中のコントロールのしやすさと安定感にある。試乗の際には旋回中と、カーブから直線に戻る際の挙動に気を付けて観察してもらいたい。
乗り心地については当然ながら少し硬めであるが、角の取れた乗り味で振動の収束も速いため、決して不快ではない。何より高速道路に持ち込めば、抜群の安定性を持ってドイツ車の本領を見せつけてくれる。

こんな人に乗ってもらいたい
本車はBMWのラインナップの中でも特異な部類で、生粋のBMW信者のための車という印象もあるが、私個人としてはこれまで国産車のみを乗り継いできた人の"浮気相手"として最適な一台であると思う。確かに高価な一台ではあるのだが、格好よし、パワーよし、ハンドリングよし、しかも後席も使えますよ、というデラックスな仕様を考えれば、十分投資する価値のある対象である。「外車ってどんな感じだろう?乗ってみようかな?」という人への最適解がここにはあるのだ。
無論欠点も無いわけではない。視界の狭さや、巨体の取り回しには難儀するだろうし、後席については5シリーズの方が快適である。だが、日常の喧騒を忘れ、ただどこかに走りに行きたい、そんな人には間違いのない一台である。


諸元/640i Gran Coupe M Sport
全長:5,010mm
全幅:1,895mm
全高:1,390mm

ホイールベース:2,970mm
トレッド:1,600mm(前)/1,665mm(後)
最低地上高:125mm
最小回転半径:5.5m

車両重量:1870kg
車両総重量:2,145kg
乗車定員:5名

エンジン:N55B30A 直列6気筒DOHC24バルブ
総排気量:2,979cc
最高出力:320ps/5,800rpm
最大トルク:45.9kgm/1,300-4,500rpm
燃料タンク容量:70L(無鉛プレミアム)
燃費:12.4km/L(JC08)

駆動方式:FR
変速機:電子制御8AT
サスペンション:ダブルウィッシュボーン(前)/インテグラルアーム(後)
制動装置:ベンチレーテッドディスクブレーキ(前/後)
タイヤ:245/40R19(前) 275/35R19(後)

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